作業療法士の卵200人が体験!国際医療福祉大学におけるバリアフリーマップアプリWheeLog!を使った5年間の授業の取り組み

国際医療福祉大学小田原保健医療学部作業療法学科講師の岩上さやか先生より、バリアフリーマップアプリ「WheeLog!を活用した授業の取り組みについてご寄稿いただきました。

こんにちは。国際医療福祉大学小田原保健医療学部作業療法学科で教員をしております岩上です。今日はWheeLog!を使った私の授業の取り組みをお伝えします。

WheeLog!の代表である織田さんと面識は無かったのですが、友人の友人というご縁で、アプリ立ち上げ時代からWheeLog!の存在を知っていました。その時は、コンセプトが大変素晴らしく、広く知られると良いなと思っていた程度でしたが、リリース後にアプリを使ったイベントに私も参加し、初めて実際に使ってみて「これは支援者側にも伝えておかなければ!」と使命の様なものを感じたのです。

というのも、私達作業療法士の仕事は何かしらの理由で“生活のしづらさ”を感じている方々を支援するリハビリテーションの専門職です。生活とは暮らす事、生きる事であり、当然の事ながら私達が普段当たり前にしている「行きたいところへ行く」という事も含まれます。同時に作業療法士は対象者の自立を支援する仕事なので、行きたいところへ行けるように都度の支援ではなく、「これがあればどこへでも一人で行けそうです!」と思ってもらえるような環境が作れたら、非常にうれしいのです。

これって正にWheeLog!の事ですよね。

自分の暮らす街、そして行ってみたかった街など、車椅子ユーザーや外出に不安のある方々の背中を押すことができるWheeLog!アプリを、支援する側が知っていて、その存在を必要な方に届ける事はとても大切な事だと考えています。そこで、卒業後作業療法士として働く学生にはぜひ知っておいて欲しいと強く思い、5年ほど前から自分の授業に取り入れています。

授業では、学生個別での現地調査を宿題とし、その調査結果をWheeLog!に反映させながらディスカッションするという方法を取っています。授業で大切にしている事は次の3つです。

  1. 自分で自分の住む街の現状を把握する
  2. 自分で自分の住む街のバリアに気づく
  3. どうあったら良いのか、自分に何ができるかを考える

<自分で自分の住む街の現状を把握する>

授業では「最寄り駅のトイレ」と「良く行く飲食店or駅のエレベーターorコンビニの多目的トイレ」の現地調査を宿題にしています。WheeLog!投稿時の各項目のチェック事項を参考に作成した調査用紙を配布し、それを元に通学途中等に確認してきてもらいます。

一般的に、多目的トイレの存在を知っていても、利用することが無ければわざわざ開けて中を覗いてみる人はいないでしょう。しかし「ここにトイレがあるよ!」と紹介するのであれば、実際にどうなっているのか見ておくことが大事ですので、学生には必ず現地で確認してきてもらっています。それ故、過去には「多目的トイレのドアを開けたら不良が数人たむろってたので慌てて閉めました!」なんて事件もありましたが…その様な現実を知る事も大事です。

<自分で自分の住む街のバリアに気づく>

実際に自分で街の隅々を見てみると、知っているようで知らなかった多くの発見があります。それはずっと変わらずにそこにあった事実なのですが、目を向けていなかった事で気づかなかった事です。学生から良く聞くのが「うちの駅は多目的トイレが無かった…」「階段しかなかった…」「段差が大きくて、車椅子では入れないお店だった…」等という事です。毎日通学時に使っていたのに気づいていなかった…学生はちょっと残念そうな顔をします。でも普段生活していて困らなければ、それによって困っている人がいるという事になかなか気づけないものですよね。しかし、宿題を通した数か所の調査でも「そうか!」とはっとする経験があれば、その気づきを他の場所に向ける事ができます。これにより、まずはどこにバリアがあるのかと敏感なアンテナを張れるようになると思うのです。

<どうあったら良いのか、自分に何ができるかを考える>

宿題が終わったら、授業中スクリーンにWheeLog!を映しながら、調査用紙を元に全員で投稿を行います。学生は自分の調査してきたトイレに愛着がわくようで、スクリーンにトイレの写真が映し出されると嬉しそうな顔をしたり、他にもっと設備の整ったトイレが映し出されると悔しがったり、調査時からイマイチなトイレだと感じていた学生は「見せたくないです」と言ったりします。笑 同じ多目的トイレでも場所により造りが異なる事を学べますし、一度自分で見てきているので、どう違うのかを知ることができます。そして次に、WheeLog!の入力項目がどうして必要なのかをディスカッションします。例えば多目的トイレなら「清潔感ってどうして必要だと思う?」「便座に背もたれが必要なのはどういう人だと思う?」、飲食店なら「椅子が固定されていると何が難しいと思う?」「店内か同じフロアにトイレが無かったら飲み会楽しめる?」等々。学生が実際に見て確認してきた情報をもとにディスカッションする事で、調査項目の必要性を一歩踏み込んで理解でき、且つ一人一人が自分の調査してきた場所の改善点を明確にできます。また、利用する方の障害像を考える事で、専門職として必要な理解を深める事もできるのです。

人から聞く話は覚えているようで覚えていない事がほとんどですが、自分で経験して考えた事を忘れる人はほとんどいません。ですので、私は授業で取り入れる際に一方的に伝えるのではなく、学生が実際に調査をして、それについて考える機会を持つという流れにしています。そして、作業療法士として臨床現場で働きはじめ、車椅子で自宅へ退院される事になった方や、様々な理由で外出に不安を抱えている方を担当した際に「あ! WheeLog!紹介しよう!」と思ってくれるといいなと思っています。

WheeLog!は外出に不安のある方の世界を広げるアイテムです。車椅子ユーザー達の投稿による情報の蓄積は何よりも大事ですが、WheeLog!を知らなかった事で、家に取り残されている方がいるとしたら、そんな悲しい事はありません。その様な方々に出会う可能性が高い支援者こそ、WheeLog!を知り、適切に伝える必要があると思っています。

本学の作業療法学科は1学年40名ですので、過去5年間で約200名のWheeLog!を使った事がある作業療法士を輩出することができました!

これからも、“支援の一つとしてWheeLog!を紹介できる作業療法士”を育てていきたいと思います。

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