
目次
なぜ小規模店舗のバリアフリー化が必要なのか?

小さな段差が生む大きな壁 〜段差があることで広がる「あきらめ」〜
車いすユーザーにとって、わずかな段差が大きな障害となり、行きたいお店に入ることをあきらめざるを得ないことがあります。
残念ながら今の社会では、車いすユーザーが「段差があるから」とお店に入店できなかったり、「通路が狭いから」と店先で断られてしまうような体験が、まだまだあります。
私たちが2024年に実施した「車いすのお困りごとアンケート(小規模店舗編)」でも、「入店を断られた」「車いすだと伝えたら店側から無理と言われた」など、切実でネガティブな声が数多く寄せられました。
わずか1つの段差が“あきらめ”につながり、そのあきらめが「出かける意欲そのもの」を奪ってしまっている。――そんな現状が、今も続いています。

現在のバリアフリー法では、延べ床面積2,000㎡未満の小規模店舗は「努力義務」にとどまっており、義務化されていません。多くの路面店や飲食店の入り口には依然として段差が残っています。その結果、車いすユーザーや高齢者が利用しづらい状況が続いています。また、店舗オーナーの中には、「お店に車いすの人が来ることは少ない」「改修には費用がかかる」といった理由でバリアフリー化が後回しになっているケースもあります。
群馬県の取り組み:バリアフリー化の第一歩
このような課題を解決するために、「群馬県官民共創ポリシープロジェクト」として、小規模店舗への簡易スロープ設置を全額補助し、設置をする実証実験を行いました。ウィーログは、このプロジェクトを通じて小規模店舗のバリアフリー化を推進し、段差のある小規模店舗向けに可動式スロープの全額補助を行いました。この取り組みは、全国の自治体、店舗、障害者団体と協力し、スロープ設置店舗を増やし、車いすユーザーを含むすべての人が自由に外出しやすい社会を目指しています。
群馬県官民共創ポリシープロジェクトとは
政策を軸にした社会課題解決を加速するための寄付基金Policy Fund(運営:株式会社PoliPoli)と、ニューノーマル社会でのトップランナーを目指しユニークな取り組みを次々に実施している群馬県がタッグを組み、群馬県内の社会課題の解決を加速させる群馬県官民共創ポリシープロジェクト(以下、本プロジェクト)を立ち上げます。本プロジェクトでは、非営利団体等による社会課題解決のための企画及びアイデアを募集し、群馬県をフィールドとした実証実験を経て、社会課題解決に向けた取組の実現を目指します。
群馬県当事者団体との協力により20店舗の小規模店舗にスロープを設置


2024年5月〜2025年2月にかけて、群馬県の当事者団体の
DET群馬の飯島邦敏さん
笑って子育てロリポップの石川京子さん
ココフリ群馬の木暮奈央さん
の皆さんと共に群馬県内の小規模店舗の調査・店舗への協力のお願いを行いました。2025年2月に20店舗の小規模店舗の方々に簡易スロープ設置につき、ご協力をいただけることになりました。
実際、設置交渉では「うちは無理です」と断られたり、「車いすユーザーは来ないから不要です」と言われたり、心が折れそうになる場面も少なくありませんでした。それでも、当事者の声や現地での実態を伝え続けることで、少しずつ理解が広がり、最終的に20店舗に設置することができました。
どんな変化が起きたのか?
店主の声
- お年寄りのお客様がとても多く、杖をついて来られる方が大変喜ばれると思い、実証実験に参加させていただきたいと思いました。地域のバリアフリー化の推進のお役に立てられたら嬉しいです。
- スロープがあることで、今まで入れなかったお客様が来店されるようになりました。
- 今までは車いすの方の来店があった場合、スタッフや同行者の方と一緒に持ち上げて案内していたので、スロープがあると大変助かる。





利用者の声
- 簡易的なスロープがある=バリアフリーの意識があります、という印でもあるので、目印としてもよかった。
- 店頭前にスロープが置いてあったため車いすでの入店可能であることがひと目で分かった。
- スロープがあるだけで車椅子のユーザーウェルカムなのだとわかって嬉しい。親切な人がやっている店なのだと感じ、お店のイメージがあがる。
- 車いすにとって小さな段差が大きなバリアになってしまうので、スロープがあることで移動しやすくなる。
- 利用できるお店の幅が広がった。
- お店の方が中から声をかけてくれた、ありがたかった
- 店員さん、お客さんの心のバリアが薄いと感じることができる
- 絶対入れないと思う老舗に入れ、中にいる焼きまんじゅうを焼いているお母さんとたくさんお話しし、コミュニケーションも取れた





メディアにも多数掲載されました!
今回の取り組みは、報道機関からも大きな注目を集めました。
プロジェクトのスタート時点から、実証実験の成果、さらには「制度化」への期待まで、さまざまな切り口で取り上げられています。
📍上毛新聞(5月28日 朝刊)
事業開始に向けた現地調査の様子を紹介。スロープ設置の現場に足を運び、店舗オーナーや当事者の声を丁寧に伝えてくれました。
📍読売新聞(11月10日 朝刊)
スロープを実際に使用する車いすユーザーの体験談を中心に、実証実験の成果を特集。事業によって「変化が起きた店舗と人々のリアル」を伝える記事となりました。
📍上毛新聞(11月10日 朝刊)
同日、上毛新聞でも再び掲載。県内で進む小規模店舗のバリアフリー化と、社会的な意義について取り上げられました。
📍朝日新聞(12月25日 夕刊)
「政策化につなぐ実証実験」として、制度提言を見据えた取り組みとして紹介。先進的な試みとして、今後の展望に期待を寄せる内容でした。
行政との連携
群馬県のホームページおよび、群馬県が取り組むプロジェクト「湯けむりフォーラム」のホームページで事業内容を紹介していただきました。
■ 群馬県ホームページ(戦略企画課)「群馬県官民共創ポリシープロジェクト」について
https://www.pref.gunma.jp/page/615674.html
■ 湯けむりフォーラムホームページ
https://yukemuriforum-gunma.jp/program/wheelog/)
大型商業施設内の小規模店舗の課題

今回の取り組みと同時進行で路面店だけでなく、大型商業施設内の小規模店舗の課題にも注目しました。そして見えてきたのは、新築の大型商業施設であっても、その中の小規模店舗は利用することができない現状がまだまだ多くあるという現実です。
たとえば、2024年に開業した大型商業施設でも各テナント店舗内の段差やテーブル配置によって、実際の利用が難しいというケースが多く見られました。
これらの実態は、現行のバリアフリー法の義務基準が「通路の先」や「客席の形式」には及んでいないことが背景にあります。
こうした現状は、バリアフリー法の義務基準が大型商業施設の「出入口」や「施設全体」にしか及ばず、個別小規模店舗の構造や客席の形状までは対象にしていないという制度の限界を浮き彫りにしました。
今後の展望

今回の群馬での実証実験を通じて得られた成果や当事者の声は、国にも届きました。
2024年末以降、本実証実験結果とアンケート結果、店舗・利用者からの具体的な声をもとに、議員への働きかけ、国土交通省の担当部署との意見交換、公明党バリアフリー推進PTでの発言を継続的に行いました。また、国土交通省の「建築設計標準に関するフォローアップ会議」に委員として継続参加し、小規模店舗におけるバリアフリー化の必要性について発信を行ってきました。
これにより、令和7年度より、小規模店舗を対象としたバリアフリー課題の整理と制度的検討が正式に議題として取り上げられる見通しとなりました。
さらに、2025年3月3日には、赤羽一嘉衆議院(前・国土交通大臣)議員が「小規模店舗のバリアフリーの課題」について国会質問として取り上げ、また3月21日参議院予算委員会では、公明党・安江伸夫参議院議員、4月7日の参議院決算委員会では公明党の杉久武参議院議員も相次いで小規模店舗のバリアフリー推進について言及していただき、中野国土交通大臣から以下の答弁がなされました。
「小規模店舗に関する実態把握や課題の整理を行った上で、実効性のある対応を検討していく」
これは、本事業の成果が国政に反映された象徴的な成果であり、制度化に向けた第一歩といえます。
まとめ

この取り組みは、単にプロジェクトの一環としてスロープを設置しただけではなく、店舗の方々自身がバリアフリーへの意識を持ち、行動に移してくださっていることを示しています。バリアフリーの意識や合理的配慮の考え方が、少しずつではありますが現場で根付いていく様子を目の当たりにすることができ、とても感動しました。こうした小さな変化が積み重なり、地域全体でのバリアフリー化が進んでいくことに大きな希望を感じます。
スロープ設置店舗一覧
1. らーめんや なかじゅう亭 WA-FU
〒370-1207 群馬県高崎市綿貫町1695-3
2. オイスターハウス (OYSTER HOUSE) 高崎駅前
〒370-0053 群馬県高崎市通町42
3. 景気屋笑売 ウエイブ 本店
〒370-0053 群馬県高崎市通町52
4. PIZZERIA BACI
〒370-0826 群馬県高崎市連雀町21-1 連雀町ビル1F
5. room’s
〒370-0827 群馬県高崎市鞘町1
6. 甘縁房
〒370-0827 群馬県高崎市鞘町83
7. 炙りや 笑多 田町本店
〒370-0824 群馬県高崎市田町31
8. 柳川美熊野 鉄板ステーキ
〒370-0815 群馬県高崎市柳川町70 ホテルグランビュー高崎 4階
9. BISTRO KNOCKS 高崎店
〒370-0815 群馬県高崎市柳川町83-2
10. 和蘭ししがしら
〒370-0841 群馬県高崎市栄町12-17 TAMONZ 1F
11. 牛タンと蕎麦の店 つゆ下梅の花
〒370-0841 群馬県高崎市栄町14-9
12. 元祖 焼まんじゅう 茶々
〒370-0848 群馬県高崎市鶴見町5-1 天田ビル
13. ヤキニクガーデン 肉男(ミートマン)
〒370-0069 群馬県高崎市飯塚町381-4
14. BALInese Cafe/AQUA Table
〒370-0069 群馬県高崎市飯塚町381-2
15. .SEEZN
〒370-0072 群馬県高崎市大八木町605-4
16. たこ顔 江木店 カリポリ
〒370-0046 群馬県高崎市江木町986
17. レストランシャンゴ 倉賀野店
〒370-0854 群馬県高崎市下之城町177-9
18. OSTERIA 36
〒370-0853 群馬県高崎市下中居町238-8
19. 純手打 蕎麦処 真人
〒370-0035 群馬県高崎市柴崎町1666-1
20. 味蔵
〒370-1207 群馬県高崎市綿貫町1695-3
ご協力いただいた店舗の皆さまへ
この度、バリアフリー化の取り組みにご賛同いただき、スロープ設置にご協力くださった店舗の皆さまに、心より感謝申し上げます。皆さまのご理解とご協力が、多くの人々の移動の自由を支え、新たな希望を生み出しています。
皆さまのご協力がなければ、このプロジェクトは実現しませんでした。スロープを設置することで、車いすユーザーやご高齢の方、ベビーカーを押す親御さんたちが、今まで入ることが難しかったお店を訪れることができるようになりました。これは、単なる店舗の改善ではなく、「誰もが楽しめる街づくり」への大きな一歩です。
地域全体の意識が高まり、より多くの店舗がバリアフリー化を進めることで、さらに住みやすい街が実現されることを願っています。
皆さまのご協力に、改めて深く感謝申し上げます。
最終報告書を公開しました
今回のスロープ設置事業の詳細や、店舗オーナー・利用者の声、現場での工夫や苦労、制度提言に向けた動きなどをまとめた「最終報告書」を公開しました。
バリアフリー法の“努力義務”の枠を超えて、誰もが安心して街を歩ける社会をどうつくっていくか。
その一歩を、どんな仲間と、どんなやり方で踏み出したのか——ぜひご覧いただけたら嬉しいです。
今後、報告書の内容をもとに、制度改正や他地域での展開も目指していきます。
ご関心のある自治体・団体・企業の方からのお問い合わせも歓迎です!