
2025年3月28日(金)、株式会社日建設計のNIKKENインクルーシブデザイン研究チームとの共催で、「バンクーバーにおけるアクセシビリティの向上」をテーマに、元バンクーバー市長であり、インクルーシブな社会づくりに尽力されてきたサム・サリバン氏をお迎えし、特別講演を開催しました。
当日は現地・オンライン合わせて約90名が参加し、大変盛況となりました。
目次
ご挨拶・イベント概要
NIKKENインクルーシブデザイン研究チーム 岡 万樹子氏

はじめに、NIKKENインクルーシブデザイン研究チームの岡 万樹子氏より、同チームのこれまでの取り組みや、昨年実施した海外視察の報告を交えながら、インクルーシブデザインの意義についてご紹介いただきました。
サム・サリバン氏のご紹介・ウィーログ活動紹介
NPO法人ウィーログ代表 織田 友理子

続いて、ウィーログ代表の織田 友理子より、本講演会開催の経緯と、ゲストであるサム・サリバン氏のご紹介を行いました。
講演 サム・サリバン氏

アクセシビリティへの視点
講演の冒頭、サリバン氏はご自身の経験を交えながら、社会におけるアクセシビリティの本質を問いかけました。
- 誰のため、何のためのアクセスか?
- アクセシビリティは、デザインの問題か? それともマネジメントの問題か?
- コミュニティと専門家の関係性はどうあるべきか?
サリバン氏は、アクセシビリティの多くはマネジメントの在り方にかかっているとし、初期段階から方針を定め、実行体制を整えることが最も重要であると語りました。
「バリアフリーを後から追加するのではなく、最初から組み込むことで、費用も負担も大きく抑えられる」と述べられました。
その考え方はまさに、ウィーログが進めて行きたい“当事者参画”の理念と重なるものでした。
体験へのアクセスの重要性
サリバン氏が特に強調されたのは、「体験へのアクセス」の大切さでした。
ご自身も、セーリング、カヤック、ハイキング、音楽など、さまざまなアクティビティに積極的に取り組まれています。
「車椅子でも空を飛べる。海を渡れる。釣りだって楽しめる」
建物に入れるかどうかだけでなく、その先にある体験や活動に参加できるかどうかが、アクセシビリティを考える上で重要だと語られました。
「友人を誘い、一緒にハイキングに行けば、誰かが“サムの車いすを押さなければ”と自然に気づく。みんな、誰かの力になりたくて来てくれるんです」と話される姿が印象的でした。
ウィーログの活動への共感
「コミュニティが課題を見つけ、専門家が解決していく。その連携こそが、社会を変えていく鍵です」
その上で、今回の講演会で共催させていただいた日建設計さまとの連携を高く評価していただきました。
ウィーログの目指す社会に、国を越えて共感を寄せていただけたことは、大変ありがたく、今後の活動への大きな励みとなりました。
パネルディスカッション
パネルディスカッションでは、参加者からの質問にもお答えいただきました。
「当事者が声を上げることは大事だが、どのように声を届けていくか。その際に気をつけていることは?」という質問に対し、
「政治家に声を届け、実際に車椅子に乗ってもらえば、状況はすぐに伝わる」
この言葉は、私たちが取り組む「車いす街歩き」の意義そのものであり、今後さらに活動を広げていきたいと感じました。
また、障がい当事者が政治に関わることの意味について、こう述べられました。
「私が議員として“いる”だけで、バリアフリーが進んでいった」
市長として在任中、バンクーバーのまちが自然とバリアフリーになっていった背景には、“当事者が意思決定の場にいる”という事実がありました。その影響力の大きさを、実体験を通じて共有してくださいました。
閉会のご挨拶
日建設計 執行役員 石川 貴之氏

イベントの締めくくりには、日建設計執行役員であり、イノベーションデザインセンター代表・日建設計総合研究所 代表取締役所長でもある石川 貴之氏よりご挨拶をいただきました。
33年前にバンクーバーを訪れた際のエピソードを交え、「あのときのホスピタリティこそが、インクルーシブの原点」と振り返られ、サム・サリバン氏の活動への敬意と、この日を共有できたことへの感謝の言葉を述べられました。
おわりに
サム・サリバン氏は、19歳でスキー事故により四肢麻痺となった後も、1993年にバンクーバー市議に初当選し、2005年には市長に就任。以来、長年にわたりインクルーシブな社会づくりをけん引してこられました。
トリノ五輪の閉会式で、車椅子にオリンピックの旗を掲げた姿を記憶されている方もいらっしゃるかもしれません。
今回の講演会のきっかけは、2016年に代表・織田友理子がバンクーバーを訪れた際、街の高いアクセシビリティに感動し、知人の紹介でサム・サリバン氏と直接出会ったことに始まります。
サム・サリバン氏は、NPO法人ウィーログが世界的な建築設計企業である株式会社日建設計さまと協働している点に、大きな意義を感じてくださいました。
また今回のイベントに先立つ3月26日には、サム・サリバン氏がPYNT(ピント)を訪問され、株式会社日建設計 執行役員・海外事業部門代表の田中亙さま、都市開発グループ代表の木村由布子さま、日建設計総合研究所 代表取締役所長の石川貴之さまをはじめとする皆さまと、都市計画や住宅問題をテーマにした勉強会を開催していただきました。
このように、講演会だけでなく、継続的な対話と学びの機会をいただけたことに、日建設計の皆さまに改めて心より御礼申し上げます。
私たちNPO法人ウィーログは、これからも当事者と専門家がともに学び合い、声を届け続ける場をつくってまいります。
なお、本講演会は、日頃よりご協力いただいているNIKKENインクルーシブデザイン研究チームの飯田和哉さま、岡万樹子さまのお力添えのもと、共創スペース「PYNT(ピント)」にて開催されました。
ご参加いただいた皆さま、そして本イベントの開催にご尽力いただいた日建設計の皆さまに、心より感謝申し上げます。