目次
はじめに

2025年12月から2026年1月にかけて、台湾南部の屏東(ピンドン)県、および北部の台北市を訪問し、台湾における最新のバリアフリー対応を視察してきました。
シリーズ第2回となる本レポートでは、福祉用具にまつわるあらゆる相談を受け付ける総合支援拠点、「福祉用具センター(屏東縣輔具資源中心)」の先進的な取り組みについて詳しくお伝えします。
福祉と日常が溶け合う「公園内の専門拠点」

屏東県には現在、3カ所の福祉用具資源センターと複数の拠点があります。今回視察した「屏東縣輔具資源中心」の最大の特徴は、子どもたちが活発に遊ぶインクルーシブ公園(潮州共融遊戲場)の敷地内に、専門的な福祉施設がごく自然にある点です。
この「遊び場の中に専門拠点がある」という配置は、非常に合理的かつユニークな効果を生み出していました。散歩や遊びのついでに立ち寄れる開放的な雰囲気は、相談をより日常に近い身近なものにしています。さらに、調整を終えたばかりの車いすを、スロープや舗装が整った目の前の公園ですぐに試運転できるという、屋外環境ならではの実用的なメリットも備えていました。福祉が特別な場所で行われるものではなく、地域の日常的な風景の一部となっている点に、台湾の街づくりの思想が表れています。
9つのサービスが支える地域共生

この開放的な場所に置かれたセンターでは、福祉用具を単なる「モノ」としてではなく、誰もが社会参加するための「大切なリソース」として捉える9つの包括的なサービスを提供しています。
- 輔具評估(福祉用具の評価・アセスメント)
- 専門諮詢(専門家による相談)
- 輔具展示(福祉用具の展示・体験)
- 輔具申請(福祉用具の給付・公的助成の申請)
- 輔具租借(福祉用具のレンタル)
- 輔具維修(福祉用具の修理・メンテナンス)
- 輔具回収(不要になった福祉用具の回収)
- 二手輔具媒合(中古福祉用具の仲介・マッチング)
- 輔具宣導(福祉用具に関する啓発・普及活動)
専門家による「評価(評估)」や「専門相談(諮詢)」、「展示・体験(展示)」といった直接的な支援から、煩雑な「給付申請(申請)」のサポート、一時的な「レンタル(租借)」、そして長く使うための「修理・メンテナンス(維修)」までをワンストップで担っています。さらに、役目を終えた用具の「回収」と「中古品の仲介(二手輔具媒合)」、地域への「啓発活動(宣導)」までを網羅しています。このように、「評価から再利用まで」を一気通貫で担う体制こそが、台湾のバリアフリーを支える大きな基盤となっています。
リアルな生活を想像させる展示と評価


センター内部では、単に製品を展示するだけでなく、利用者の実際の暮らしに寄り添った高度な評価環境が提供されていました。
特に印象的だったのは、床面にはプロジェクションによって「車いすの旋回に必要な150cmの半径」が可視化されており、数字上のデータだけでなく、実際の広さを体感しながら用具を選定できる工夫でした。他にも車いすのまま利用できるキッチンの動線設計を再現したエリアなど、相談者が「自分ならここでどう動くか」と、将来の生活を前向きにイメージしやすい工夫がなされていました。
資源を循環させる「福祉用具のセカンドライフ」


このセンターでは、一度役目を終えた福祉用具を地域社会の大切な資産として循環させる、高度な再生システムを確立しています。
回収された用具は、洗浄・消毒・乾燥という徹底したプロセスを経て、専門家による厳格なメンテナンスを施すことで、再び命を吹き込まれます。この大規模な資源循環システムは、単なる中古品の再利用に留まりません。経済的な理由や一時的な必要性を持つ住民へ用具を適切に繋いでいくことで、地域全体で誰もが動ける自由を支え合うという、持続可能な福祉のあり方を象徴していました。
限られた資源を分かち合う「共助」の精神が、具体的な運用フローとして制度化されている点に、台湾の福祉の厚みが感じられます。
専門家集団による包括的なサポート

これらの多岐にわたるサービスを支えているのは、理学療法士(PT)や作業療法士(OT)といったリハビリテーションの専門職です。
特筆すべきは、台湾における「福祉用具評価員(輔具評価人員)」の厳格な資格制度です。このセンターで相談にあたる専門職は、PTやOTとしての国家資格を保持しているだけでなく、さらに政府が規定する100時間前後の専門研修を修了し、認定を受けたスペシャリストたちです。
こうした高度な知見を持つ専門家が常駐しているからこそ、単に既製品を貸し出すだけでなく、当事者一人ひとりの身体状況をきめ細かく評価し、ミリ単位の調整(フィッティング)を行うことが可能となっています。彼らは「用具の専門家」であると同時に「生活動作の専門家」でもあります。
さらに、彼らの活動はセンター内だけに留まりません。広大な面積を持つ屏東県において、移動が困難な方や自宅環境での評価が必要な方のために、専門職自らが出張対応を行っています。
「その用具を使って、自宅や地域でいかに自分らしく過ごすか」という、生活の地続きにある課題を、現場まで足を運んで共に解決していく。こうした徹底した伴走型の支援と、裏付けされた高度な専門性が、このセンターへの揺るぎない安心感と信頼を支えていました。
さいごに

潮州の福祉用具センターは、支援が必要なときだけ訪れる場所ではなく、地域の人々が日常的に集まる公園の真ん中で「支えるプロフェッショナル」が待機している場所でした。
相談から評価、修理、そして資源の循環まで。この一貫した支援体制が、福祉をより身近な安心感へと変え、誰もが排除されない地域共生社会を支える不可欠なインフラとして機能していました。
最後になりますが、急な視察のお願いであったにも関わらず、休日を割いて快くセンターを開け、詳細なご説明とご対応をいただいたセンター主任の楊明勤さん、そして、今回の貴重な機会を設けていただいた莘翊居家護理所のジョアンさん、リタさんらに心より御礼申し上げます。

