スペイン視察レポート② 〜まちづくり・バリアフリー建築編〜

2024年9月、ウィーログ事務局はデロイトトーマツ様からのご支援により、スペインのマドリードとバルセロナにてアクセシビリティ・障害者運動などに関する視察を実施いたしました。

特に、日建設計インクルーシブデザイン研究チームの皆様、および東洋大学名誉教授の高橋儀平先生との一週間にわたる合同視察では、専門的な見地から多くを学び、大変刺激を受ける貴重な機会となりました。今回の視察で得られた知見を活かし、日本のバリアフリー化推進に貢献できるよう、今後も活動してまいります。

視察の内容を バリアフリーツーリズム編まちづくり・バリアフリー建築編行政・制度改革等の取り組み編の全3回に分けてご報告します。

1. エンリケ・ロビラ氏(車いす建築家)

車いす建築家であり、アクセシビリティの専門家であるEnrique Rovira-Beleta(エンリケ・ロビラ・ベレタ)氏にご講演をいただきました。ロビラ氏は、バルセロナ・オリンピックやパラリンピックをはじめ、都市や公共施設のアクセシビリティ向上に長年携わってきた第一人者です。氏は「21世紀の建築は高齢者のための建築」であるべきであり、「アクセシビリティは、障害のある人々のための単なるニーズではなく、すべての市民にとって、恩恵である。」と語られています。誰もが視力や聴力、身体能力が衰えるのは当たり前であり、それを前提に設計することが不可欠であり、その恩恵はすべての人にもたらします。講演を通じて、バルセロナがどのようにして世界でも先進的なアクセシブルな都市になったのか、その背景を知ることができました。日本でもアクセシビリティを「特別なもの」ではなく、「当たり前の設計」として取り入れることの重要性を改めて感じました。

2. Design for all International(ユニバーサルデザイン)

今回の街歩きツアーでは、デザインフォーオールインターナショナル代表のフランセスク・アラガイ氏、インマ・ボネット氏、AVANTI STUDIOのアレックス・ドバーニョ氏の3名に、バルセロナのインクルーシブデザインを案内していただきました。

バルセロナは、歩行者優先の街づくりを進める中で、公園のインクルーシブデザインや分かりやすいサイン計画など、多様な人々が快適に過ごせる工夫が随所に見られます。例えば、車いすの子どもも楽しめる公園や、足の不自由な人が手で使え、視覚障害者にも配慮されたゴミ箱など、細部にまで配慮が行き届いています。

また、平坦な石畳や、歩道と横断歩道の段差をなくすスロープで、車いすユーザーや高齢者にとって移動しやすい環境を提供しています。さらに、スーパーブロックの導入により、歩行者空間が拡大され、安全かつ快適に街を歩くことができます。

3名の専門家による解説を通して、バルセロナがインクルーシブデザインの先進都市であることを実感しました。

3. Cambiadores inclusivos(インクルーシブトイレ/Changing Places)

バルセロナのビーチにて、イギリス発祥のインクルーシブトイレ「Changing Places」をさらに発展させた「Universal Changing places」の視察を行いました。案内してくださったのは、スペインで同運動を展開するCambiadores Inclusivos(カンビアドーレス・インクルシーボス)の代表、Ana Folch(アナ・フォルク)氏とダイレクターのEriz Delgado(エリス・デルガド)氏です。

今回視察したバリアフリートイレは、海水浴を楽しむ車いす利用者が利用できるトイレであり、スペイン初のビーチに設置された、夏に設置される仮設のChanging Placesです。室内には、天井走行リフト、大型の昇降式ベッドなど、利用者の視点に立った設備が充実していました。特に、天井走行リフトは、障害のある方だけでなく、介助者の負担軽減にも配慮されており、細部まで考え抜かれた設計に感銘を受けました。

日本でも、このようなインクルーシブな社会インフラが広がり、誰もが快適に過ごせる社会になることを願っています。

Cambiadores inclusivosのLinkedin投稿

4. PMMT建築設計事務所(インクルーシブデザイン)

PMMT Arquitectura は、バルセロナを拠点とする建築設計事務所で、特に「Clear Code Architecture(CCA)」という独自のアクセシビリティの評価指標を持ち、バリアフリー度の高い建築作品で知られています。視覚・聴覚・認知・身体的な多様な人のニーズに対応するデザインを取り入れ、建築空間をすべての人にとってわかりやすく、使いやすいものにすることを目指しています。PMMTは、医療施設や公共建築を中心に、多くのプロジェクトでユニバーサルデザインを実践しており、バリアフリーやインクルーシブデザインの分野で高く評価されています。

事務所訪問で、アクセシビリティをはじめとするPMMTのイノベーションの取り組みを学ぶ貴重な機会となりました。

PMMTによるLinkedIn投稿

5. ジローナ病院(バリアフリー設計)

PMMT Arquitecturaが設計した、スペイン・カタルーニャ州ジローナにある「ジローナ病院(Clinica Girona)」を訪問しました。ジローナ病院は、誰にとっても分かりやすく使いやすい環境が整備されています。
特に、視覚的に分かりやすい案内表示やバリアフリー設計が充実しており、障害のある方や高齢者、病院を訪れる人がスムーズに移動・利用できるよう配慮されています。

PMMT Arquitecturaが提唱する「Clear Code Architecture(CCA)」を体現した建築であり、アクセシビリティを重視した設計手法を学ぶ上で、重要な訪問先のひとつとなりました。

6. ROCA(衛生機器メーカー)

世界的な衛生機器メーカーであるRocaは、ヨーロッパを中心に世界中で広く使われています。

一般的に、バリアフリー対応のトイレや福祉機器は、病院などで使われることを前提に作られることが多く、デザイン性よりも機能性が重視される傾向があります。しかしRocaは、病院だけでなく、誰もが「使いたい」と思えるような、スタイリッシュなデザインを追求しているという姿勢を強調されていました。今回の訪問では、Rocaの方々とデザイン性と機能性を両立させた、より良いトイレのあり方について熱い議論を交わしました。

上部へスクロール