スペイン視察レポート① 〜バリアフリーツーリズム編〜

2024年9月、ウィーログ事務局はデロイトトーマツ様からのご支援により、スペインのマドリードとバルセロナにてアクセシビリティ・障害者運動などに関する視察を実施いたしました。

特に、日建設計インクルーシブデザイン研究チームの皆様、および東洋大学名誉教授の高橋儀平先生との一週間にわたる合同視察では、専門的な見地から多くを学び、大変刺激を受ける貴重な機会となりました。今回の視察で得られた知見を活かし、日本のバリアフリー化推進に貢献できるよう、今後も活動してまいります。

視察の内容を バリアフリーツーリズム編まちづくり・バリアフリー建築編行政・制度改革等の取り組み編の全3回に分けてご報告します。

1. UN Tourism(UNWTO/世界観光機関)(マドリード)

マドリードに本部を置く、UN Tourism(UNWTO/世界観光機関)を訪問しました。 アクセシビリティコーディネーターのIgor Stefanovic氏が受け入れてくださり、ユニバーサルツーリズムにおけるアクセシビリティ向上の取り組みについて意見交換を行いました。
2019年に北海道の倶知安町にて行われたG20で、観光大臣の前で発表をした際にお会いしたUN Tourism(UNWTO/世界観光機関)事務局長ズラブ・ポロリカシヴィリ(Zurab Pololikashvili)とのご縁により、実現しました。

関連記事はこちら:

G20観光大臣の方々にWheeLog!の紹介をしました!

Igor Stefanovic氏のLinkedin投稿

2. tur4all/Impulsa Igualdad(ユニバーサルツーリズム情報)

Impulsa Igualdad(インプルサ・イグアルダ)は、スペインで障害者の権利擁護と社会参画を推進する団体です。また、スペイン発のユニバーサルツーリズム情報プラットフォーム「tur4all」を運営し、障害のある人が安心して旅行できるよう、ホテル、レストラン、観光スポットなどのアクセシビリティ情報を提供しています。
今回の訪問では、これらの情報の共有や連携の可能性について意見交換を行い、バリアフリーツーリズムの取り組みをさらに強化するための議論を深めました。

Tur4allによるLinkedin投稿

3. イルニオンホテル(インクルーシブホテル)

イルニオンホテルは、真のインクルージョン(包摂)を実現するモデルケースとなっています。 バリアフリー環境が整えられているだけでなく、ホテルのスタッフにも障害のある方が多く雇用されており、サービスを受ける側だけでなく、提供する側としても活躍できる環境が整えられています。
HOTEL ILUNION Atrium のダイレクターLucas Barreta氏より直接お話を伺い、このような取り組みを、より多くの人に知ってもらうことで、日本をはじめ、世界中でのインクルーシブな取り組みに繋げていきたいと感じました。

ILUNION HotelsによるLinkedin投稿

4. カタルーニャ音楽堂(劇場のバリアフリー)

カタルーニャ音楽堂(Palau de la Música Catalana)は、バルセロナにある世界遺産のコンサートホールで、モデルニスモ(カタルーニャ独自のアール・ヌーヴォー様式)の傑作とされています。
通常の観客席は可動式の椅子が用意されていても、パイプ椅子であることが当たり前です。この音楽堂では可動式の椅子も通常の観客席と同じデザインで用意されていました。障害があっても介助者も一緒に楽しめる細部への配慮を日本にも広めていきたいと感じました。

帰国後、サイトライン等の建築設計標準フォローアップ会議の委員に就任し、フォローアップ会議の際に事例を国土交通省に共有させていただきました。

5. サンパウ病院(世界遺産)

世界遺産のサン・パウ病院は、約100年前に建設された古い建物ですが、病院施設ということもあり、各施設はスロープや階段昇降機の設置など、しっかりとしたバリアフリー対応がされていました。見学施設には、もちろんバリアフリートイレやエレベーターも完備されています。

サン・パウ病院で特徴的だったのが、写真2枚目の出口の部分です。バルセロナでよく見られるスロープの設計なのですが、階段の周りに緩やかな傾斜をつけて、自然とスロープにしています。また、ゲートが設けられていますが、もちろん車いすで通れるように横に開閉可能な透明のドアが設置されています。

自然な造形美で環境に溶け込む美しいバリアフリー対応で、バルセロナのバリアフリー建築の特徴がよく現れている施設でした。

6. 田中裕也氏(ガウディ建築案内)

ガウディ研究の第一人者・田中裕也氏の案内で、バルセロナのガウディ建築を巡りました。印象的だったのは、ガウディ自身が小児ポリオを患い、身体が不自由だったことが、彼の建築デザインに大きく影響を与えていた点です。

ガウディは、当時最先端のエレベーターを採用し、内部に椅子を設置するなど、移動のしやすさを考慮した設計を行いました。また、カサ・ミラやカサ・バトリョには、手に馴染むドアノブや流線型の階段・手すりなど、すべての人に優しいデザインが随所に見られます。

ガウディの建築は単なる芸術作品ではなく、人間の身体や使いやすさに配慮したユニバーサルデザインの先駆けでもありました。この視点は、現代のバリアフリー設計にも通じる重要な学びとなるのでは無いでしょうか。

ガウディ観光について、以下の記事に詳しく載せていますので、興味ある方は是非ご覧下さい。

#6:車いすでもバルセロナの有名観光地に行ける?世界遺産のガウディ建築を巡る

7. カサ・ミラ(ユニバーサルツーリズム)

1996年に世界遺産登録されたガウディの代表作カサ・ミラ(La Pedrera)は、今でも居住者のいる住居である観光地です。2008年からバリアフリー化に取り組み、視覚、聴覚、認知など多様な障害に対応しており、年間1000人以上の障害者が訪れるそうです。

点字や触ることのできる模型など、視覚障害者向けの工夫も随所に施されています。アクセシビリティ向上への取り組みが今なお続けられています。

8. サグラダ・ファミリア(ウェイファインディング)

サグラダ・ファミリアのウェイファインディング(Wayfinding)を手掛けたアレックス・ドバーニョ氏の案内で、サグラダ・ファミリアを見学しました。彼らの手がけたサイン計画によって、訪問者が効果的に誘導される仕組みや、インクルーシブな展示空間の工夫について詳しく学ぶことができました。

例えば、車いす使用者でも見やすい展示スペースや、視覚障害者や子供を含めた触れる模型の設置、展示物の説明文など、誰もが理解しやすい展示物を提供しています。また、視認性の高いサインや点字案内、音声ガイドなどを組み合わせることで、多様なニーズに対応したアクセシビリティを確保。サグラダ・ファミリアでは、障害当事者の意見を取り入れながら、常にアクセシビリティの向上に努めています。単なる歴史的建造物としてだけでなく、すべての人にとって開かれた観光地となるよう進化し続けています。このような取り組みは、他の観光施設や文化遺産にも応用可能であり、このようなさきがけの取り組みがさらに広がって欲しいと願っています。

9. グエル公園(公園のアクセシビリティ)

グエル公園はバルセロナの丘陵地にあり、高低差があります。そのため、車いすで行くには少しハードルが高いのですが、行ってみると車いすで主要スポットにアクセスできるバリアフリールートが整備されています。観光スポットとして有名な広場やタイル装飾のベンチまで、車いすでも行くことが出来ます。自分たちだけではどのルートを進めばいいのかわからない場合は、至る所にスタッフの方がいるので行きたい場所を伝えると教えてくれます。

経路上には写真1枚目のような石畳や、車いすにとってはかなり勾配が急な個所があるため、1名ないし2名の同行者と行かれることをお勧めします。広場からはバルセロナの青い空と市街地や海を見渡せます。景色を眺めながら時を忘れたようにゆっくりと過ごしてもいいかもしれません。

10. バルセロナ・パビリオン(建築デザイン)

バルセロナ・パビリオンは、1929年のバルセロナ万博で建設されたドイツ館を再建したもので、ミース・ファン・デル・ローエによって設計されました。近代建築の傑作として知られています。

アクセスは、正面入口に階段がありますので、入口にいる係員の人の案内で、裏口から、敷地内に入ります。

館内は、開放的で、とても気持ちの良い空間です。有名な「バルセロナチェア」など、ミース自身がデザインした家具も展示されています。

11. JEAN LEONワイナリー(バリアフリー観光)

カタルーニャ州政府観光局さまの依頼で、スペイン・カタルーニャ地方にある「JEAN LEON」ワイナリーを訪れました。ワインの本場、カタルーニャの魅力が詰まった素敵なワイナリー体験ができたので、実際に訪れたワイナリーやバリアフリーの視点から感じた魅力を、余す所なく以下の記事でお届けしています。

関連記事はこちら

上部へスクロール